製薬企業の研究所について (1)

こんにちは、Moogleです。

最近、そういう時期なのか、Twitterを拝見していると製薬企業の研究職への就活に関するお話をよく目にします。最近お世話になっている某国立大学基礎生物系の教授からも、
「学生が製薬企業の研究所に行きたがってるんだけど、実際のところどうなの?どうしたら入れるんだろう?」
という質問を頂き少し雑談していました。

確かに、生物系の方々からすると、「製薬企業の研究所」は最新の設備、潤沢な研究費、優秀な同僚と最先端のサイエンスが出来て、かつ、何よりも患者さんのお役に立てる!
という、自身のバックグラウンドを活かせる願っても無いお仕事に見えるのかもしれません。

それは事実である一方、製薬企業の研究所が本当にそんな「楽園」なのかは多くの議論がありますので、その議論は横に置いておいて、製薬企業の研究所の研究職を理解するために持っておくと良いかもしれない予備知識など、これまでの個人的経験に基づきながら記事を書いてみたいと思います。

そもそも製薬企業研究所の研究職って?

研究所で研究職してます!と、詳しい人に話すと絶対に「何の分野ですか?」というお話になります。それだけ多くの異なる専門性を持った研究者集団で成り立っていることが分かります。
例えば「薬理で免疫関係の動物実験をしていて・・・」と話が展開されていくわけです。

そもそも合成なのか?生物なのか?生物といっても、薬理なのか生化学なのか・・・。学生の立場で考えると、どんな分野が研究所にあるか知らないと、自分のバックグラウンドが活かせるのか、興味ある研究業務に従事できるのか、分からないですよね。

製薬企業に限らないですが、自分が思い描く企業研究者を目指すためには、相手を知ることはとても重要だと思います。製薬企業に興味を持っていただける方々に少しでもお役に立てれれば、と思いながら筆を進めたいと思います。

ということで、本記事では製薬企業の一般的な研究所の研究職について簡単に説明していきたいと思います。(CMCは全く詳しくないので書けません。ご了承ください)

化合物合成研究

多くはいわゆる「メディシナルケミスト(メドケム)」という職になります。一般的には医薬品の「素」を合成して作り出して「薬」に仕上げていく研究ですね。ただ、会社の規模によっては実は更に研究業務が細分化されることもあります。

  • プロジェクトに入り込んで化合物を合成していくメドケム
  • プロジェクトの早期の段階で”アタリ”をつけるために、ひたすら沢山の化合物をデザインして合成するメドケム
  • 化合物のターゲットやオフターゲットを見つけるためのケミカルプローブ(e.g.蛍光プローブ、プルダウン用プローブなど)を合成するメドケム

他にも順調に進んでいるプロジェクトで動物実験等で大量使用する化合物をバルク合成する、生産用の反応工程の設計に携わる、などがあると思います。これは会社の規模によっては一人で複数の役割を幅広く担うこともありますし、ある特定の段階の研究について専門的に従事することもあります。

新卒の方の場合は、入ってみないと分からない。という可能性もありますが、最近は新卒の方(特に博士号お持ちの方)の専門性に期待して、初めから活躍が期待できるグループに配属させることも多い気がします。

ニューモダリティが台頭してきたために、合成研究があまり表に出てこないこの頃ですが、医薬品開発において合成分子が重用され続けると思います。今の風潮に惑わされずメドケムの方々には踏ん張って底力・基礎力を付けておいて欲しいなぁと個人的に本当に応援しています。

”低分子化合物には大きな未来があると思っています。すなわち創薬のプラットフォームとして新薬を生み出すことができるポテンシャルが高いのです。”(JT大川所長)

基礎生物系研究

この基礎生物系の職種はそのものズバリでは募集がかかっていない/少ないことが多く、「基礎研究は製薬企業で行なっているのですか?」という質問は学生さんならずとも大学の先生方からも質問を受けることがあります。

何をもって基礎研究とするかですが、、、

  • 疾患に関係する分子の探索から詳細なメカニズム解析
  • 新しいテクノロジーを利用した細胞評価系や生化学の検出系の構築
  • 新規の化合物探索技術の構築
  • 新規モダリティ導入に向けた基礎的研究

例えば上に挙げたような研究アクティビティは大手の製薬企業では行なっているのではないでしょうか。ただ、そこにどれだけリソース(人数、コスト)をかけているか。が鍵です。専用のグループを設けることも、進行中のプロジェクトの脇で1〜2人で取り組むこともあるかと思います。

会社の研究姿勢を見るにあたり重要な指標としては、基礎研究への姿勢です。もし仮に、新しいことを1〜2人と言う少数精鋭で社内のみで検討してます!なんて自信満々に仰る会社は要注意です。聞こえは良いですが、本当に社内でしか知らない知見に基づいていることなんてかなり少数です。と言うことは社外情報に基づいている。つまり、世界に目を向けたら非常にcompetitiveな状況です。

社外情報に基づいて少数で細々と研究を進めている限り、よほど運がないと事業には繋がらない世の中になっていることは理解しておく必要もあります。(2社目での個人的経験からの学びです(苦笑))

最近は産学連携やオープンイノベーションという言葉が小躍りしているように、企業内というより大学などと組んで行なおうとしていることが多いように思います。

(第一三共さんのオープンイノベーション例)

薬理研究

これは分かりやすいですね。いわゆる薬理です。いや実は分かりにくいかもしれませんね。

Job responsibilityは会社によって異なると思いますが、

「疾患モデル(細胞、動物)を構築し、化合物を評価する」という文で表すことが出来ると思います。

社員さんの背景を見ると、やはり薬学系で動物実験をされていた方が多い気がしますので、動物実験に携わったことがあれば、薬理系で活躍できる可能性は高いです。また、会社によっては、大枠では薬理としていますが、基礎的研究に人員を当てがっていることもありますので、製薬企業の「薬理研究」は非常に広義な印象を持っています。

薬物動態研究

これはその通り、薬物動態です。ほぼ全ての製薬は薬物動態研究所なり薬物動態研究室なりを持っていると思います。医薬品を作るためには絶対避けては通れない分野です。

低分子ですと、その化合物がどのように代謝されて排泄されていくのかについて、代謝酵素やトランスポーターの試験を実施したり、PKPDモデル系を組んだり幅広いです。

また、ここでの研究は(もちろん薬理研究などもですが)、プロジェクトが成功した際には審査書類、添付文書やインタビューフォームに掲載される結果を生み出す可能性が高く非常に重要です。医薬品開発は有効性も重要ですが安全性も重視されます。

最近では、シミュレーション、PBPKやOrgan-on-a-chipなどのヒト体内の新規予測系構築を目指して研究されている方も多いのではないでしょうか。

また、低分子だけかと思いきや、中分子や核酸、細胞医薬のデリバリー基質についても代謝排泄を確認することがあるようなので、実はモダリティに関わらず重要な研究分野であると私は認識しています。

薬物動態研究は大学院ですと薬学研究科で行われていることが多いので、本研究に関わる研究員の方々は必然的に薬学部卒業の方が多くなります

安全性研究

薬物動態と同じく非常に重要です。がん化リスクや生殖毒性など医薬品が引き起こす可能性のある様々な有害作用のリスクを見ていく研究です。

レギュレーションですべき試験は決まっていることも多いですが、動物実験が多いので、薬物動態同様にヒトで実際どうなるかを予測するための新規試験系を研究したり、またなぜ毒性が出るのかといった原因を追求する研究もされていることが多いです。

薬物動態と同じく、モダリティに関係なく重要な研究分野です。安全性の少し変わったところとしては病理グループなど獣医師で構成されるグループも存在します。

インフラ系研究

インフラ系研究は、プロジェクト横断的に関係する研究であり、例えば化合物スクリーニング、化合物ライブラリー構築、インフォマティクス研究などでしょうか。

例えば、化合物スクリーニングも関係されたことがある人なら分かると思いますが、実は際立った専門性が必要な研究領域です。素人が安易に手を出すと本当に痛い目にあいます。

各種インフォマティクス(バイオインフォマティクス、ケモインフォマティクス)もプロジェクトや疾患横断的に関わると思いますし、最近は求人も多い分野であることに間違いないです。

インフラと卑下して呼んでいるわけでは決してありません。この役割が無いと研究所として成り立たないから「インフラ(縁の下の力持ち)」と呼んだ次第です。私もインフラ系研究で入社していますが、様々な疾患やプロジェクトに横断的に関与出来たので大変勉強になりました。

 

まとめ

創薬研究に花形の研究分野なんてありません!

上記に挙げた研究分野が1つでも欠けると医薬品は創製出来ません。もし無かったとしても、最近はCROで外部委託していただける会社が増えてますが、外部委託できる研究分野だから「下」とか合成は自分達しか出来ないから「上」とか特許に名前載る自分達が「上」とか、そういうポジショニングは絶対にありません。

極論、全ての創薬研究ファンクションは外部委託出来る世の中になってます。(一例としてアクセリードを挙げておきます)

昔の名残(?)で「自分達、合成が一番偉い」とか「薬理が偉い」、だから何も言わずに他の研究所は言う通りに実験してくれ。と勘違いしている研究員の方は居るんです。

でもそれは明らかに間違ってます。企業研究者は研究だけではなく、組織の一員として協力しながら事を成し遂げる重要性も理解せねば、創薬は出来ないかなと思います。

製薬企業に興味を持っていただいている方々にとって、この記事が研究所内のお仕事・専門性・役割を理解していただく一助になればと思います。

 Take home message
  • 研究所は様々な専門性を持つ研究員で構成されている
  • 製薬企業の研究所の各研究所が花形
  • 創薬にあたり全ての分野の研究者が協力する事が重要

”会社によって表現の仕方などが変わるかもしれませんので、あくまで個人的な経験に基づく記事としてご参考ください。”